【3307】 ○ 中原 淳/中村 和彦 『組織開発の探究―理論に学び、実践に活かす』 (2018/10 ダイヤモンド社) ★★★★

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組織開発の歴史を120年以上前の思想や哲学の誕生に遡って解説しているのはユニーク。

組織開発の探究.jpg組織開発の探究 理論に学び、実践に活かす』['18年]

 今また何十年かぶりに注目を集めている「組織開発」ですが、本書は、組織開発の初学者が、その概略について理解を深め、組織開発の深い経験を持つ実践者が、その思想や歴史を理解し、さらに、組織開発に関心のあるすべての人が、実践について理解し、自社におけるアクションのヒントを得ることができることを目的に書かれた本であるとのことです。

 全5部構成の第1部は「初級編」であり、第1章で、初学者向けに組織開発とは何かを解説し、第2章で、組織開発を"感じる"ための手がかりとして、組織開発の3つのステップや5段階の実践モデルを示すとともに、企業内における組織開発においてありがちな「生々しいリアリティ」をまとめています。

 第2部と第3部は「プロフェッショナル編」として、組織開発の歴史と発展の歩みを辿っています。第3章では、組織開発を支える「3層モデル」というものを提唱し、その第1層としての「組織開発の考え方」の哲学的な基盤を、ジョン・デューイのプラグマティズムやフッサールの現象学、フロイトの精神分析学などに求めて解説しています。

 第4章では、「3層モデル」の第2層としての「組織開発の方法」の基礎となったものとして、心理劇(サイコドラマ)とゲシュタルト療法の2つの集団療法について解説し、第5章では、組織開発を支える経営学的基盤として、テイラーシステムや人間関係論、行動科学があったとしています。

 さらに第6章では、「3層モデル」の第3層として開花した「独自手法の発展」として、1940年代のクルト・レヴィンの社会実験から始まったTグループや、感受性訓練(ST)、エンカウンターグループなどを解説しています。

 ここまでが言わば組織開発の「前史」であり、第3部・第7章では、1950年代から1960年代にかけての「組織開発」の誕生からその青春時代までを追い、第8章では、1970年代から80年代、90年代と、組織開発が環境の変化とともにどのような変遷を遂げたのかを述べています。

 第9章では、日本における組織開発の歴史を辿り、第10章では、アメリカで組織開発と「似て非なるもの」が「自己啓発セミナー」として暴走し、日本でも1980年代後半から流行して、「マインドコントロール」としてマスコミでも取り上げられた経緯を紹介、第11章では、2000年代に入り「組織開発の見直し」が進み、「対話型組織開発」などの新しい手法も生まれ、組織開発が再びブームとなるに至るまでを解説しています。

 第4部は組織開発のケーススタディ編で、キャノンやヤフーなど先進5社の組織開発の取り組み事例が紹介され、第5部は、「組織開発の未来」についての両著者の対談となっています。

 タイトルに「探求」とありますが、組織開発とは何かについて書かれた第1部と、組織開発の歴史と発展について書かれた第2部、第3部で全体の8割近くを占め、第4部もケーススタディであることから、テキスト的な色合いの濃い本であると言えます。ただし、組織開発の歴史を、120年以上も前の、1890年代からの組織開発につながるであろう思想や哲学の誕生に遡って解説しているのはユニークであり、そうした意味で「探求」ということになるのかもしれません。

 堅くなりがちな内容が分かりやすくかみ砕いて書かれていて、組織開発というもののイメージをつかむには良い本だと思います。また、組織開発の歴史に関する知識も、それに携わる人の素養として持っていて無駄ではないと思います。実践面の解説がほぼ事例の紹介にとどまっていて、その部分はやや弱い印象もありますが、第5部の対談で、では一体社内のどの部署が組織開発を推進するのかといったことなども議論されていたりして、最後まで関心を持って読めた本でした。

《読書MEMO》
●目次
はじめに
第1部:初級編 組織開発を感じる
第1章 組織開発とは何か
1. 組織開発の定義
2. 組織開発は風呂敷である!?
第2章 組織開発を"感じる"ための3つの手がかり
1. 1つ目の手がかり:「組織開発とは組織をworkさせる意図的な働きかけ」である
2. 2つ目の手がかり:「組織開発に注目が集まる背景」を理解する
3. 3つ目の手がかり:「組織開発のステップ」
  コラム●対話と議論の違い
4. 組織開発の5段階実践モデル
5. 企業における組織開発の実際
6. より開かれた議論へ:組織開発と党派制
第2部:プロフェッショナル編(1) 組織開発の歴史学
第3章 組織開発を支える哲学的な基盤
1. 組織開発の3層モデル
2. 哲学者ジョン・デューイ:経験と学習の理論
3. フッサールの現象学:「今 ── ここ」の理論
4. フロイトの精神分析学:無意識の中の抑圧を顕在化させる
5. 組織開発を支える哲学的基盤のまとめ
第4章 組織開発につながる2つの集団精神療法
1. 集団精神療法とは何か
2. モレノの心理劇
3. パールズのゲシュタルト療法
第5章 組織開発を支える経営学的基盤
1. テイラーの科学的管理法
2. メイヨーの人間関係論
3. 行動科学の登場
4. バーナード以降の近代派
第6章 組織開発の黎明期
1. Tグループの始まり クルト・レヴィンの社会実験
2. Tグループとは何か
3. クルト・レヴィンのさらなる発明
4. クルト・レヴィンと組織開発
  コラム●ジョハリの窓
5. ST(sensitivity training):感受性訓練の発達
6. ロジャーズのエンカウンターグループ
7. イギリスでの動き:グループ・アプローチから社会技術システム・アプローチへ
第3部:プロフェッショナル編(2) 組織開発の発展
第7章 組織開発の誕生
1. アンブレラ・ワードとしての「組織開発」
2. 1960年代の組織開発
3. 組織開発の定義
  コラム●組織開発の定義における効果性と健全性について
4. 組織開発の基本的な進め方
5. 組織開発の青春時代
第8章 組織開発の発展
1. 組織開発をめぐる環境の変化:1970年代
  コラム●経営学の理論的系譜と組織開発の変化
2. 診断型組織開発の確立
3. 組織開発実践者のためのトレーニング
  コラム●ゲシュタルト組織開発について
4. 組織開発の「風呂敷化」が進む:1980年代
5. 組織開発は死んだ!?:1990年代
第9章 日本における組織開発
1. Tグループの日本への導入
  コラム●組織開発の実践者に求められること
2. 日本のODブーム
3. 組織開発から小集団活動などへの移行
4. 大学におけるTグループと組織開発研究
5. バブル崩壊による組織開発の衰退
6. 組織開発ブーム再燃
第10章 組織開発と「似て非なるもの」の暴走
1. ファシリテーターの質
2. 自己啓発セミナーの暴走
第11章 組織開発の復活 組織開発の見直しと対話型組織開発の広がり
1. 組織開発の見直し
2. 強みに着目する組織開発:AI
  コラム●社会構成主義とは何か
3. ホールシステム・アプローチの広がり
4. 対話型組織開発というコンセプトの出現
  コラム●診断型組織開発と対話型組織開発は二分できるのか?
第4部:実践編 組織開発ケーススタディ
Case1:キヤノン
社内コンサルタントが支援するCKI活動
Case2:オージス総研
現場を巻き込んで風土を改善する「アジャイル改善塾」の仕掛け
Case3:豊田通商
働き方改革と「いきワク活動」の取り組みについて
Case4:ベーリンガーインゲルハイム
人事ビジネスパートナーによる組織開発
Case5:ヤフー
組織課題に合わせて進化する組織開発
第5部:対談 「組織開発の未来」
組織開発は「経営に資するべきもの」か「人に資するべきもの」か
・経済的な価値と人間的な価値が二律背反するものであるとする議論自体を超える
・対話によって教条化した組織開発像を超える
・組織開発は、実践者の数だけある
・組織開発実践者の人材開発
・組織開発はマネジャーの武器になる
・労働人口が減少する中、日本の経営がなすべきこと
おわりに
索引
組織開発の系譜
●組織開発を"感じる"3つの手がかり
・「組織開発とは組織をworkさせる意図的な働きかけ」である
・「組織開発に注目が集まる背景」を理解する
・「組織開発のステップ」
① 見える化
② ガチ対話
③ 未来づくり
●組織開発の5段階実践モデル
① エントリーと心理的契約
② プロジェクトデザインと準備
③ フィードバックによる対話
④ アクション計画・実施
⑤ 評価
●企業内における組織開発においてありがちな「生々しいリアリティ」
① 人材開発と"ちゃんぽん"になりがちである
② ときに「血生臭い」人事プロセスとセットになって実施されることがある
③ 想定外のことが次々起こる「即興的実践」になりがちである
●紹介
コミュニケーションを活発にし、組織を活性化させることを目的とする「組織開発」に注目が集まっている。 「組織開発とは、組織の健全さ(health)、効果性(effectiveness)、自己革新力(self-Renewing capabilities)を高めるために、組織を理解し、発展させ、変革していく、計画的で協働的な課程である」(ウォリック) 平たく言えば、組織開発の目的は「組織の健全さ、効果性を高める」こと、であり、具体的には組織内のコミュニケーションを意図的に活発にすることから作業が始まる。 人材開発は働く個人に働きかけ、その成長を支援することである。それに対し、組織開発は、そのように単純化した説明が難しい。それは、組織開発が「ある特定の手法」を指すのではないからだ。また、その歴史をさかのぼると、組織開発には、人の心理を操作する悪しきやり方によって、自殺者を出すなどの黒歴史もあった。 本書では組織開発の思想的源流をさかのぼって、その哲学と手法の変遷をたどる。大ざっぱに言えば、100年の歴史の流れを解説する。さらに、いま行われている組織開発の手法を紹介し、5社の実践事例も解説する。

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